環境DNA技術2.0 –短鎖ミトコンドリアDNAマーカーを越えて–

(a) マクロ生物を対象とした環境DNA論文数の経時変化。各グラフの色は本総説内で指定された環境DNAの性質および動態に関するキーワード (色が薄い順から、放出プロセス、存在状態、移流拡散プロセス、分解プロセス) を指し、どのキーワードにも該当しない研究は白色で表される。各年に出版された論文の合計はグラフ上部にそれぞれ示される。(b) 各キーワードに該当する論文数の合算。全体に対する割合 (%) は括弧内の数値でそれぞれ示される。[元論文の図2を引用]

環境DNA技術による生物モニタリングは世界中に普及しつつありますが、環境DNAの性質 (放出ソース、存在状態) や動態(移流拡散、沈降吸着、分解) といった基礎情報に関する研究は不足しています。私たちは、2008-2020年に国際査読誌で発表されたマクロ生物を対象とした環境DNA研究 (計728本) を整理し、その分子細胞学的な状態に関する研究が特に不足していることを指摘しました (上の図)。放出された環境DNAの移流・分解プロセスは、環境要因に加え環境DNAそのものの性質にも強く依存しうることを考慮すれば、この結果は環境DNAの基礎情報に関する潜在的なボトルネックを示唆しています。これを受け私たちは、短鎖ミトコンドリアDNAに基づく従来の環境DNA技術に対する、核DNA・長鎖DNA・細胞内DNAなど様々な状態の環境DNAに基づく本技術の新たな応用可能性について、幾つかの研究例と共に概説しました。


著者:相馬(徐)寿明(龍谷大学 兼 日本学術振興会)
論文:Jo, T., Takao, K., & Minamoto, T. (2022). Linking the state of environmental DNA to its application for biomonitoring and stock assessment: targeting mitochondrial/nuclear genes, and different DNA fragment lengths and particle sizes. Environmental DNA, 4(2), 271-283.

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