会長挨拶

第二代会長 源 利文(神戸大学)

2022年11月より、一般社団法人環境DNA学会の初代代表理事・会長であった近藤倫生さんの後任として、代表理事・会長を拝命いたしました。学会のさらなる飛躍に向けて尽力いたしますので、会員の皆様のご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

環境DNA学会は2018年4月に発足し、現時点で発足から4年半ほどになります。初代会長の近藤さんのリーダーシップのもとに成長した学会には、今年の8月末時点で正会員327人、賛助会員31団体のご参加を頂いております。まだまだ発展途上の新しい学問分野ではありますが、多くの方々のご参加を得て、分野の成長を実感しているところです。

この4年半の間、環境DNA学を取り巻く状況は大きく変化しました。学会としては、2019年に標準マニュアル(日本語版)の発行、2020年には同マニュアルの英語版の発行などをおこなって、手法を一般的に用いられるものとするために努力してまいりました。コンスタントに実施している技術セミナーも手法の普及に貢献しています。このような取り組みのおかげもあり、日本国内においては、環境DNA分析は中央省庁や地方自治体の生物モニタリング事業に利用されるようになるなど、社会的にも重要な生物モニタリング手法の一つであると認知されるに至っております。また、市民や企業との協同なども進んでおり、今、環境DNAはますます社会に浸透していく段階にあるのでしょう。このような学問として環境DNA学、あるいはツールとして環境DNA分析手法の急速な発展と社会への定着には学会が大きな役割を果たしたものと考えており、それは、そのためにご尽力してくださった多くの会員の皆様方のおかげです。

このように急速に発展、定着した環境DNA学、環境DNA分析ですが、今後さらに本格的に社会に役立つ技術となるかどうかは、これからの進め方にかかっているのではないかと思います。例えば、かつてのガラケーのようにあまりに日本独自の方向に進みすぎれば世界から孤立し、せっかく多くのデータを得ても、国際的に比較不可能になってしまうなどの問題が出てくるはずです。それを防ぐためには、国際的な連携を進めなければいけません。また、分析サンプルがどんどん増えていく中で、正確な分析を担保するためには分析する組織の技術的な認証制度なども必要になってくるかと思われます。このような方向性の学会運営には理事会メンバーの多様性も増さなければならないでしょう。このようなメンバーの多様性は学会の国際化、国際連携などにむけても鍵となるはずです。

一方で、忘れてはならないのは手法として、学問としての面白さです。環境DNAのことを初めて聞いたときに、多くの人は「水を汲むだけでそこに棲む生き物のことがわかるなんて、面白い!」という感想を覚えたのではないでしょうか。環境DNAの実験に携わるようになったとき、川や海をみると、つい水の中を覗き込んでしまう癖がついた人もいると思います。学会の社会的な責任を果たすのと同時に、このような純粋な面白さ、ワクワク感を失わないこと、そしてそれを次世代に伝えていくことも、同様にとても大事なことだと思います。

このように、学会としては様々な課題を抱えているこのタイミングでありますが、その過程を楽しみつつ、学会の運営にとり組んでいきたいと思います。会員の皆様方にもご協力をお願いすることが多々あるかと思いますが、変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。

2022年12月21日
一般社団法人 環境DNA学会
会長 源 利文