[Finished] 第4回環境DNA学会北海道大会

第4回環境DNA学会北海道大会が開催されました。
Environmental DNA誌に掲載された大会の実施報告はこちらから。

1.学術大会の開催
1) 期日 :2021年11月20日、21日
2) 場所 :オンライン、北海道大学地球環境科学院 (公開シンポジウム)、南三陸ネイチャーセンター (公開シンポジウム)
3) 参加者:正会員(一般)165名、正会員(学生)66名、賛助会員51名、非会員(一般)18名、非会員(学生)10名
4) 講演数:基調講演1件
公開シンポジウム1件、自由集会3件、夜のトークセッション3件
ポスター発表74件・高校生12件
5) 公開シンポジウム:環境DNA市民科学 -参加型調査で地域の生態系を見つめる
6) 企業展示:2件
7) 協賛:7社
8) 実行委員会:

荒木 仁志(環境DNA 学会 大会長・北海道大学)/ Hitoshi Araki (Hokkaido U.)
近藤 倫生(環境DNA 学会 学会長・東北大学)/ Michio Kondoh (Tohoku U.)
源 利文(環境DNA 学会 副会長・専務理事・神戸大学)/ Toshifumi Minamoto (Kobe U.)
土居 秀幸(兵庫県立大学)/ Hideyuki Doi (U. Hyogo)
笠井 亮秀(渉外担当理事(CPD 担当)・北海道大学)/ Akihide Kasai (Hokkaido U.)
山中 裕樹(龍谷大学)/ Hiroki Yamanaka (Ryukoku U.)
峰岸 有紀(東京大学)/ Yuki Minegishi (U. Tokyo)
益田 玲爾(京都大学)/ Reiji Masuda (Kyoto U.)
高原 輝彦(環境DNA 学会 会計担当理事・島根大学)/ Teruhiko Takahara (Shimane U.)
清野 聡子(九州大学)/ Satoquo Seino (Kyushu U.)
生駒 優佳(環境DNA 学会 事務局)/ Yuka Ikoma (Secretariat, The eDNA Society)
小林 有季子(環境DNA 学会 事務局)/ Yukiko Kobayashi (Secretariat, The eDNA Society)
宮 正樹(千葉県立中央博物館)/ Masaki Miya (Natural History Museum and Institute, Chiba)
山本 哲史(農業・食品産業技術総合研究機構) / Satoshi Yamamoto (NARO)
岩崎 渉(東京大学) / Wataru Iwasaki (U. Tokyo)
小出水 規行(農業・食品産業技術総合研究機構) / Noriyuki Koizumi (NARO)
今藤 夏子(国立環境研究所) / Natsuko I. Kondo (NIES)
中村 圭吾(土木研究所) / Keigo Nakamura (PWRI)
堀 正和(水産研究・教育機構 水産資源研究所)/ Masakazu Hori (FRA)
内井 喜美子(大阪大谷大学) / Kimiko Uchii (Osaka Ohtani U.)

●ローカル組織委員会 / Sapporo committee members
神戸 崇(北海道大学)/ Takashi Kanbe (Hokkaido U.)
小林 由美(北海道大学)/ Yumi Kobayashi (Hokkaido U.)
井上 頌子(北海道大学)/ Shouko Inoue (Hokkaido U.)
藤井 和也(北海道大学・株式会社 福田水文センター)/ Kazuya Fujii (Hokkaido U.)
三塚 多佳志(北海道大学・パシフィックコンサルタンツ株式会社)/ Takashi Mitsuzuka (Hokkaido U.)
根岸 淳二郎(北海道大学)/ Junjiro Negishi (Hokkaido U.)
内海 俊介(北海道大学)/ Shunsuke Utsumi (Hokkaido U.)
池田 幸資(パシフィックコンサルタンツ株式会社)/ Kosuke Ikeda (Pacific Consultants, Co.)

学会大会プログラムはこちらから、要旨集はこちらからご覧ください。

2.ポスター賞受賞者・要旨集(博士以上)
最優秀賞 PP024「空気中の環境 DNA 分析に適したエアーサンプリング法の検討」
大中 臨・稲葉 愛美・中尾 遼平・赤松 良久(山口大院創成科学)

環境DNA分析はこれまで水中の生物を中心に適用されてきた.しかし,空気中にも鳥類や哺乳類などの微量なDNAが浮遊しており,水中と同様に環境DNA分析を活用した広域の生物モニタリングが可能であると考えられる.そこで,本研究では3種のエアーサンプリング方式(液体インピンジャー式,サイクロン式,フィルター式)を用いた室内および野外での実験により,空気中の環境DNAから鳥類や哺乳類の在・不在を把握する最適なエアーサンプリング法について検討した.

優秀賞 PP001「両生類を対象とした環境DNAメタバーコーディング検出系の開発と評価」
坂田雅之・河田萌音(神戸大・院・発達)、倉林敦(長浜バイオ大、広島大)、栗田隆気(千葉中央博)、中村匡聡・白子智康(いであ株式会社)、掛橋竜祐(長浜バイオ大)、西川完途(京都大・院・地環)、モハマド=ヤジッド=ホスマン(サラワク森林局)、西島太加志・樺元淳一(農林水産省)、宮正樹(千葉中央博)、源利文(神戸大・院・発達)

本研究では、eDNAメタバーコーディングのための新しい複数のPCRプライマーセットを開発し、その有効性を検討した。まず、現存する両生類3目を全て含むように組織から抽出したDNA(3目13科16属)を用いて、5つのプライマーセット候補を用いてPCR増幅試験を行った。その結果、試験に用いられた全ての組織DNAが全てのプライマーセット候補によって増幅された。次に、内部増幅領域の各種の配列の非類似度をもとに、各プライマーセットについて種間解像度を比較したところ、Amph16Sと名付けられたプライマーセットが最も高い解像度を示した。最後に、日本全国でフィールド調査(10地域160地点)を行い、Amph16Sを用いたeDNAメタバーコーディングの検出力を従来の調査(採捕及び目視調査)との検出種の比較により評価した。その結果、Amph16Sを用いたeDNAメタバーコーディングでは、従来の調査よりも多くの種が検出され、有効性が示された。

優秀賞 PP006「魚類の環境RNAによる誤検出の極めて少ない河川生態調査の実現」
宮田楓・本田大士・井上泰彰・天野雄斗・西岡亨・山根雅之(花王株式会社)、川口貴光(株式会社環境指標生物)、森田修(花王株式会社)

生態調査は、生物多様性保全や環境問題解決への方針策定などに重要な役割を担う。環境DNAは、従来の調査方法の課題を解決する技術として注目されているが、環境中に長期間残存することによって、既にその場に存在しない生物を検出してしまう誤検出が課題である。そのため、DNAよりも分解しやすいRNAの利用が考えられるが、河川において環境RNAの存在量や生態調査への有用性は不明であった。そこで、那珂川において環境DNA/RNAメタバーコーディングの比較解析を実施した結果、環境RNAは環境DNAと同等以上の感度を示したうえ、顕著に誤検出率が少ないことが見出された。環境RNAでのみ検出した魚には個体密度の低い生息魚が含まれていたのに対し、環境DNAでのみ検出された魚の殆どは生息していない海産魚であった。本結果は、環境RNAは環境DNAより時空間的解像度の高い精緻な生態調査を実現できる可能性を示唆している。

優秀賞 PP015「環境DNAの簡易な抽出・検出法の提案」
鈴木良地・河村邦生・水上優子(愛知農総試)

動力を用いずに、市販の器具だけで環境水をろ過し、簡易キットで環境DNAを抽出する簡便な方法を提案する。これにより、一連の操作に係るコスト、時間、労力を大幅に低減可能である。LambdaDNAの模擬水による室内試験では、標準的な方法と比べて平均で約7.8倍多くDNAを回収できた。また、この簡易法による抽出DNAは、PCR法だけでなく、むしろLAMP法での分析に適していた。このため、特にオンサイトでの検知に有効と考えられた。

2.ポスター賞受賞者・要旨集(修士・学部)
最優秀賞 PP052「堆積物DNAにより復元された動物プランクトンの過去100年にわたる産卵量の変動」
中根快(愛媛大・沿岸環境)、土居秀幸(兵庫県立大・情報)、越智梨月・加三千宣(愛媛大・沿岸環境)、槻木玲美(松山大・法)

近年目覚ましい発展を遂げている環境DNAの分析手法であるが、その供給源についてはまだ十分に解明されていない。一方、海底や湖底の堆積物には様々な生物の環境DNAが残っており、堆積試料の環境DNAから過去数百年の長期にわたる生物相復元も報告されている。本研究は、環境DNAの由来を明らかにするため琵琶湖のミジンコ2種を対象に過去100年に相当する堆積試料のミジンコ由来の環境DNAをリアルタイム法で解析し、その結果をミジンコの個体数・休眠卵量を反映する遺骸・休眠卵数の変動と比較することで環境DNAの供給源を検証した。分析の結果、環境DNA濃度は個体数変動とは一致せず、休眠卵量の変動とよく一致していることが判明した。この結果は、ミジンコの環境DNAは産卵時に放出される基質が主要な供給源であることや、堆積試料の環境DNAを用いれば過去100年にわたる産卵量の変動を再現できる可能性を示唆している。

優秀賞 PP054「北海道におけるワカサギ2種の季節性異所的分布」
池田崇人・神戸崇・荒木仁志(北大)
北海道にはワカサギ(Hypomesus nipponensis)と、イシカリワカサギ(H. olidus)の2種が存在している。本2種は、同所的に存在しつつも遺伝的に大きく分化していることが分かっている。一方2種の生殖隔離の要因や具体的な分布については分かっていない。そこで本研究では北海道・石狩川河口近傍に位置する茨戸川において、2種の生殖隔離メカニズムを解明することを目的とし、環境DNA技術を用いて春の繁殖時期と秋の遡上時期に焦点を当てて検証を行った。その結果、春にはワカサギは海に近い地点、イシカリワカサギは海から遠い地点に多く分布していることが示唆された。また秋には、ワカサギは海での分布が確認された一方、イシカリワカサギは降海していないことが示唆された。これらの結果から繁殖時期の生息地の違いや降海遡上などの行動様式の差異、といった複数の要因が絡まり2種の生殖隔離が生じたと考えられる。

3. 高校生ポスター賞
最優秀賞 SP001「環境DNA定量解析を用いた長良川のアユ仔魚降下量の推定」
森毅志、小澤利就(岐阜高校自然科学部生物班)

アユ仔魚をペットボトルに入れて放出する環境DNA量を計測したところ、平均値は3270 copies/(L・h・匹)であった。環境DNA濃度と仔魚密度(匹/m3)の調査から、産卵場におけるアユ仔魚の降下のピークは、金華橋付近で12月初旬、忠節橋付近で11月中旬、合渡橋付近で11月初旬であることが明らかになった。しかし、最も下流にある大藪大橋では仔魚を採取することができず、環境DNA濃度も低かった。このことから、上流で孵化したアユ仔魚が下流まで降下できていないと考えられる。これは、1995年から運用されている長良川河口堰による流速の低下が原因の一つだと考えられる。忠節橋において15時から22時まで1時間ごとの環境DNA定量解析と仔魚採集の結果は、おおよそ既知のアユの動態と一致していたことから、アユの動態を把握できたといえる。今後は、生態や死体の環境DNA放出量も計測し、アユ仔魚の個体数を詳細に把握することに迫りたい。

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